この記事はバージョン Spring ’26 において執筆しています。
現在の動作と異なる場合がありますので、ご認識おきください。
Salesforce Spring ’26 リリースは、単なる機能追加の集合体ではありません。プラットフォームの基盤となるインフラストラクチャ、特にコンテンツデリバリネットワーク(CDN)における根本的な構造改革が含まれています。
Salesforceが掲げる「Agentic Enterprise(エージェント型企業)」へのシフトにおいて、AIエージェントと人間が協働するためには、低遅延かつ高スループットなデジタル体験が不可欠です。この戦略的転換の中核をなすのが、長年のパートナーであったAkamaiから Cloudflare へのCDN移行と、それに伴うアーキテクチャの刷新です。
本記事では、このインフラ移行がもたらす技術的メリットと、Experience Delivery を採用する上でアーキテクトが絶対に理解しておくべき「セキュリティ上の仕様変更」について深掘りします。
AkamaiからCloudflareへ:何が変わるのか?
Spring ’26より、デジタルエクスペリエンス(Enhanced DomainsおよびCustom Domains)の基盤CDNが、順次Cloudflareへと移行されます。これは単なるベンダー変更ではなく、特にCommerceや大規模なLWRサイトにとって大きな制約解除を意味します。
URIサイズ制限の大幅緩和
従来のAkamai環境では、URIの最大サイズが約8KB(8,892バイト)に制限されていました。これがCloudflare環境では 16KB(約16,384バイト) まで拡張されます。
- これまで: 複雑なフィルタリング条件を持つ検索結果ページや、長い認証トークンを含むディープリンクで “URI Too Long” エラーが発生することがありました。
- これから: URLに約9,000文字まで含めることが可能になり、URLパラメータに状態(State)を持たせるSPA(シングルページアプリケーション)の設計柔軟性が飛躍的に向上します。
トラフィック制限の撤廃
もう一つの大きな変更点は、データ転送量の上限撤廃です。
- Akamai (従来): 年間48TBの上限(Experience Cloudライセンス)。
- Cloudflare (Spring ’26以降): Experience DeliveryまたはCommerce LWRサイトにおいて 「年間トラフィック無制限」 となります。
これにより、高解像度の製品画像や動画を多用するリッチなB2B Commerceサイトにおいても、帯域コストや制限を気にすることなく運用が可能になります。
移行スケジュール
手動移行: [設定] > [ドメイン] から手動でCDNプロバイダーを切り替えることも可能です。プロビジョニングには最大24時間(実測では数時間程度の場合もあり)かかるため、計画的な切り替えが推奨されます。
対象: 新規作成されるドメインはデフォルトでCloudflareを使用。既存ドメインは2026年1月〜6月にかけて段階的に移行。
| 機能 | Akamai (従来) | Cloudflare (新) |
| 最大 URI サイズ | ~8,892 バイト | ~16 KB (約16,384 バイト) |
| トラフィック制限 | 48 TB / 年 | 無制限 |
| 証明書 | シングル証明書 | ブランド証明書 (5つまで) |
| セキュリティ | WAF, レート制限 | WAF, レート制限, DDoS保護 |
Experience Deliveryにおけるセキュリティの「落とし穴」
インフラ刷新の恩恵が大きい一方で、Experience Deliveryを採用する場合、セキュリティ設計において極めて重要な注意点があります。それは「静的アセットのキャッシング挙動」です。
仕様:認証済みページでもアセットは「パブリック」
ドキュメントによると、Experience Deliveryインフラストラクチャでは以下の仕様が存在します。
認証済みページ(ログインが必要なページ)で使用される静的アセット(画像、CSS、JSなど)であっても、CDN上ではパブリック(公開)にキャッシュされる。
Static assets that are available on authenticated pages are cached publicly and therefore potentially available to unauthenticated guest users.
これは、従来のSalesforceサイトのセキュリティ感覚とは異なる部分です。通常、認証済みページのリソースはセッションチェックを経て配信されると考えがちですが、Experience DeliveryのSSR(サーバーサイドレンダリング)によるパフォーマンスを最大化するため、静的アセットはCDNのエッジでアグレッシブにキャッシュされます。
リスク:隠したつもりの画像が見えてしまう
この仕様により、以下のようなリスクが生じます。
- シナリオ: ポータルのログイン後ページに、「社外秘」と書かれたアーキテクチャ図(静的画像)を配置した。
- リスク: その画像の直接URL(例:
https://my.site.com/sfsites/c/resource/SecretDiagram)を推測、または何らかの方法で知った未認証のゲストユーザーは、ログインなしでその画像を閲覧できてしまいます。CDNレベルでは、静的アセットに対するセッション検証が行われないためです。
対策:機密情報は静的リソースに置かない
このアーキテクチャを採用する場合、以下の対策を徹底する必要があります。
- 監査の実施:
サイトで使用している静的リソース(Static Resource)やコンテンツアセット(Content Asset)に、PII(個人情報)や機密情報が含まれていないか確認する。 - 機密データの扱い(CMSとFilesの使い分け):
通常、LWRサイトのコンテンツ管理には拡張CMS(Salesforce CMS)を使用するのがベストプラクティスです。しかし、Experience Delivery環境下では、CMS管理下のメディアであってもCDNでパブリックキャッシュされ、URLを知る第三者に閲覧されるリスクがあります。 そのため、社外秘の図面や個人情報を含むドキュメントなど、厳格なアクセス制御が必要な「機密情報」に限っては、あえてSalesforce Files (ContentDocument) を使用することを推奨します。Filesであれば、ダウンロード時に必ずSalesforce側のセッション認証(レコード権限の確認)が実行されるため、CDNキャッシュによる漏洩を防ぐことができます。 - 動的配信:
これらはAPIコールを通じて動的に取得するか、セッション検証を必要とするCSR(クライアントサイドレンダリング)コンポーネントを介して配信し、パブリックCDNキャッシュをバイパスさせる。
開発者が意識すべきSSRの「ゲストコンテキスト」
インフラ面に関連して、開発者がコードを書く際にも意識すべき点があります。Experience Deliveryのサーバーレンダリングプロセスは、常に「ゲストユーザー」として実行されるという点です。
例えば、@salesforce/user/isGuest モジュールを使用している場合、実際のリクエストがログイン済みユーザーからであっても、サーバー上でのレンダリング中(SSRフェーズ)は常に true を返します。
import isGuest from '@salesforce/user/isGuest';
import { LightningElement } from 'lwc';
export default class UserGreeter extends LightningElement {
connectedCallback() {
// 注意:SSR中は常に true (ゲスト) と判定される
// ログインユーザー名などをSSRで描画しようとすると、
// クライアントでのハイドレーション時に表示が切り替わる「フラッシュ」の原因になる
console.log('Is Guest User:', isGuest);
}
}
パーソナライズされたコンテンツ(例:「こんにちは、〇〇さん」)を表示する場合、SSRでの描画は避け、クライアントサイドでのハイドレーション後に表示するか、CSR専用領域(lwc:dom="manual"や特定の機能タグ設定)として実装する必要があります。
まとめと提言
Spring ’26でのCloudflare移行とExperience Deliveryの導入は、Salesforce上のサイト構築におけるパフォーマンスの限界を突破するものです。
- Cloudflare移行: URI制限や帯域制限からの解放。大規模Commerceサイトの要件を満たすインフラへ。
- Experience Delivery: 爆速の初期表示速度。ただし、「静的アセットはパブリックである」という前提に立ったセキュリティ設計が必須。
アーキテクトの皆さんは、既存のAkamai環境からの移行計画(特にURI長の問題を抱えている場合は早期の手動移行)と、静的リソースの棚卸しを今のうちから進めておくことを強く推奨します。
参考URL
Salesforce Spring ’26 Release Notes
Improve LWR Site Performance with Experience Delivery
Caching Policy in LWR Sites – Salesforce Developers



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